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カメヤマは思い出した理由が分からなかった。このほつりとコンクリートの間から出てきたような思い出を大切にしようと思った。彼がまだ純粋だった頃の記憶。
「そうですか…」
唯彼はそう答えた。アンはその言葉を聞くと、口角を少し上げて笑っていた。
アンがカメヤマのそばの容器を片付けている時、医者が来て。リハビリを勧めた。リハビリと言っても何日と掛かる物では無く、久しぶりに外に出ろと云う事であった。
医者は本心では早く出ていって欲しかったのだ。彼はテレビを見ないからカメヤマの事を知らないが、最近客が多い事は知っていたから。
カメヤマはその気持ちを汲み取ったように、医療費を払って、アンと一緒に診療所の玄関へと向かった。
玄関には部屋番号順に靴入れがあった。アンは手慣れた手つきで彼の靴を出して、彼女自身は赤いワイン、水の様な安定感が無い、ヒールを履いた。水滴がシトシトと彼女のヒールには着いていた。
白いレディーススーツで彼女の体は覆われていた。頭には赤いニットを付けていた。
彼女は診療所の玄関から一足先に出ると、空を見ていた。どうやら雨は止んでいる様だと彼女はホッとした。だって傘は一つしかないんですもの、と彼女は考えていた。
カメヤマは出来れば人が余り居ない所が良いなと言った。アンにはその理由がよく分からなかったが診療所の右を真っ直ぐに行けば山があり、その山を登れば宇宙船の発着場となっている場所があり、そこでサイアンと会う約束をしている、とカメヤマに伝えた。
カメヤマはアンに道案内を頼み、診療所を出て山へと向かった。
アンは雨で落ちた。昼顔を踏んでしまった。アンの後ろに居たカメヤマは昼顔は踏まずに避けてアンの後ろについって行った。
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