転落

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カメヤマ達は寂れた公園で日が暮れるのを待つことにした。山の中にある遊具が無い公園だった。 カメヤマ達は誰一人音を出さなかった、カメヤマとサイアンの呼吸の音だけ三人の耳に入っていた。カメヤマとアンは青いペンキが所々剥げているベンチに座っていた。サイアンは赤いベンチに座っていた。 カメヤマはゆっくりと照り輝く太陽が沈んでいくのを見ながら父のことを思っていた。 父が運転する、空飛ぶ車に乗りながらの事だった。何の話をしていたかは覚え出せない、 もしかしたら初恋の話だったかもしれないし学校の話だったかもしれない。父は一緒に笑いながら呼吸のする様に自然にカメヤマに言った。やりたい事をやれお父さんはできなかったからな…。父は母を馬鹿にしたりカメヤマを馬鹿にしたりする男だった、一応宇宙船の船長だったが彼は全ての仕事を自分でやっていた、他人に任せるより自分がやった方が良いという自分を優秀だと素で言う人だった。 父はその言葉に続けて、だから勉強をしろよなんでも良いからやりたい事に役立つ事をしろ。父は自分にはできなかったと言った。やりたい事をやれお父さんにはできなったからな…と、つまり父は言わなかったがやりたい事の勉強ができなったのだ、何故ならやりたい事を勉強が出来ていれば父は船長なんてしてなかった筈だからだ。 カメヤマは父のその言葉が心に残っていた。自画自賛の父がほろりと漏らしたその子への愛情。 自分の様にはなるなと父は言いたかったのだろう。 父が日の下に沈み、二度と日を見なくなった日の帰り、カメヤマは薬学部を中退し、手品師に弟子入りした。
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