転落

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ゆっくりと着陸をした筈が、ハーランが広げていた、口の中の黄色い乱杭歯が彼の舌を噛む程の衝撃はあった。 彼等はエウロパに降りた。 エウロパは農業惑星の筈だった。しかしそこに広がるのは見渡す限りの鉄、チタン、タングステン、そして疲れ切った人。 まだ若いサイアンが考える程度の事等犯罪者の殆どは考えていた事だろう、それを考慮してない自分の責任とカメヤマは考えていた。 サイアンは少し顔をしかめながら街の方へと歩き出した。 カメヤマの家は健全で安定した家だった。そんな彼がこんな掃き溜めの様な場所に、はいそうですか、と対応できる筈がないのは明白だった。 対してサイアンは何処かの誰かも知らない、男女が勝手に恋をして、勝手に産み落とされ、勝手に育てられ、勝手に働く。そんな勝手の中にサイアンはこの程度の掃き溜めの中生きていた事があった、だから彼は対応できるのだろう。 アン等は機械だから、その一言で済まされる。カメヤマだってそう考えていた。 アンは少し恥ずかしく、少し楽しみだった。例えるなら行くなと言われた場所に赴く少女の心だろうか、彼女は新しく心を持って若かった。シノセントを使ってまだ一週間も経ってないのだから。
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