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二つの手は繋ごうとしているのか、それとも離されてしまったのか。
記憶の中のその彫刻は、実物大の白い手で、「大聖堂」と神聖な名前を付けられているのが不謹慎におもえるほど魅惑的だった。
しかしいま、目の前にある作品は記憶していたよりも大きく迫力がある。まさに大聖堂という名前のとおり神々しい。
この印象の差はどういうことだろう。私が最初にこの彫刻を見たのはいつだったか。やはり先生のアトリエだろうか。
「仁川さん?」
名前を呼ばれ我にかえる。
美術館の薄暗い室内、となりにいるのは仕事で知り合った絹田という男。ロダン展のチケットが手に入ったからと誘われて、たぶんデートと呼ばれるものの最中である。
「あ、ごめんなさい。なにか?」
「いいよいいよ、これ素敵だよね」
「ですね。ずっと見ていられます」
「やっぱり片方はカミーユの手なのかな。ロダンも色男だよね、若い愛人がいてさ。羨ましいな」
なにが気に食わないのかわからないが、その物言いに苛立ちを感じた。反論をしようとしている自分に気づきおもわず頭を振った。
「どうかした?」
「い、いえ。これってブロンズもあるんですね。石膏の作品を見たことがあったから白いイメージだったので、ずいぶん印象が変わりますね」
愛想笑いを浮かべてごまかす。
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