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「ちょっと呑みましょうよ、そこってウィスキーありますよね?」
『…僕が帰るまでに着くならな』
「急ぎますっ」
イルミネーションで飾られた街を背筋を伸ばして歩く。鼻先がつんと冷たい。また一人では持て余すイベントがやってくるのだ。華やいだ場所から逃げるように明るい街路から脇道へ路地裏へとすすむ。
目指す建物はアトリエとは名ばかりの貸し倉庫だ。道路に面した部分に窓はなく、外からでは人の気配はうかがえない。
安っぽいドアノブがまわり、まだいてくれたことに安堵した。
「デートじゃなかったのか」
顔を合わせるなりそう聞かれて驚く。
「美術館で見かけたから」
「なんだ、声かけてくださいよ」
「かけるわけないだろう」
「デートって疲れますね。さ、お高いウィスキー出してください」
コートを脱ぎながらカウチに座っている先生を追い立て、かわりに自分が座る。カウチの前にあるテーブルには、美術館でみた「大聖堂」の小さなレプリカが置かれていた。こちらは石膏のため二つの手が白く、ブロンズよりも艶かしい。
「やっぱりここで見てたのか。白いと、なんていうか…セクシャルな感じが増しますね」
「それ、僕が真似して作ったんだ」
「うそっ」
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