13人が本棚に入れています
本棚に追加
先生は氷入りのグラス二個とウィスキーのボトルを持ってきて私のとなりに座った。
「真似してって…さすがですね!私にはロダンとの違いがわかりません」
手渡されたグラスに液体が注がれていく。滑らかな音が耳に心地よい。
「模倣なんて容易いもんだ」
「凡人にはまったく理解できません。そうだ、先生は誰と誰の手だとおもいますか?」
「それはモデルという意味で?作品のコンセプトとして?」
「…コンセプト?ああそっか」
昼間、美術館での自分の苛立ちの理由がわかった気がした。ロダンの意図や自分の感受性を無視して、彫刻家の私生活を持ち出したことに違和感があったのだろう。それなのに今、私はなにを言った?
「聞き方を変えます、なにを表現したかったんだとおもいますか?」
先生は、「そうだなぁ」とグラスを傾ける。
「安っぽい表現は避けたいんだけど、愛としか言いようがないよな。キリスト教的にはアガペーというのか、だから二つの手は誰かと誰か、他者であることが重要だった」
「…なるほど」
最初のコメントを投稿しよう!