記憶がない

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 誰かが呼ぶ声がする。 「絵里(えり)起きな! 起きなと言ってるんだい」パチッと目を開ける。朝だ。後光が差しているが、薄暗い。霧が出ている。季節が季節だからであろうか、よく分からない絵里。  絵里は、まだ幼い少女。「ママ? ママはどこ? おばあちゃんはだあれ?」起き上がり、母親が恋しく、キョロキョロと顔を振る。 「ママは、ここには居ないよ」老婆がそう、語りかける。  不安がる絵里。徐々に顔が歪んでいく。 「泣くな! 絵里! 泣くんじゃ無いよ!!」そう言われて、ぐっと堪える絵里。 「強い子だね。 絵里。 それでこそ、あたしが選んだ子だよ」  絵里はきょとんとした。意味が分からない。 「えらんだってなあに?」   老婆は言ったのだった。 「絵里はたった今から魔法使いだよ」と。 「まほうつかい? 遊ぶの?」 「いいや違うよ。絵里はこれから本当に魔法使いになって、 魔王を倒すんだ」 「おばあちゃん魔王ってだあれ?」  老婆は説明した。「魔王はわるーい人。絵里はその魔王を倒さなきゃ、ママの元には帰れない」と突然任命されたのだ。 「なんで? ねえなんで、まおうってのを、倒さなきゃママに会えないの」 「やはり、記憶がないんだね。仕方ないか。 魔王を倒せば分かるよ絵里」 「きおく? 」絵里は言葉の意味が理解出来ない。老婆は、絵里の手を引っ張り、立ち上がらせる。 「取り敢えずいい方の大王様のとこに行くよ」目の前には、田んぼの畦道(あぜみち)の様なものがあり、視線の先には大きな門があったのだった。
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