それは突然に

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最近、丸坊主から髪を伸ばし始めて、カッコよさに拍車がかかってきた。 実は私と藤縄君とは、小中高、ずっと一緒だ。 小学校低学年の頃は私の方が体も大きく、私主導で一緒に遊んだりもした仲だったんだけど、小学校高学年くらいから体格は逆転し、彼も野球が忙しくなったりするなどあって、次第に言葉を交わす回数は減っていった。 私が彼のことを意識していることに気づいたのは中二の時。 既に遠くから彼の野球をする姿を眺めるだけの関係になっていた私は、夜な夜なへんな呪文や魔法陣を書いて、妄想の世界で彼と会話をしていた。 まあそれも一年くらいで、アホらしくなってやめてしまったんだけど。 そんな彼を追いかけ、高校に進学したのは否定しない。 一年、二年とクラスは違ったけど、最後の高三で小学校以来の同じクラス。 会えば挨拶する程度だったけど、嬉しかった。 野球の試合も、こっそり見にいっていた。 藤縄君の最後の夏は、全校応援の動員がかかる前に、負けてしまった。 もちろん私は見に行ってたんだけど、一人で来たにもかかわらず、『誰かに無理やり連れてこられました』感を振りまきながら、スタンドでは興味なさそうなフリをしてたんだけど、試合後、スタンド下のトイレの中で、彼の悔しさを思い、人知れず号泣した。 もちろん、その後もクラスで藤縄君に試合のことを話しかけることもなく、見にいったことも知らせていない。 私の中では、見て愛でるだけで十分な存在だったのだ。 こんな地味ガリメガネなんて、彼の眼中にないんだろうし。 私の中では、いつまでも野球に打ち込んでる藤縄君だ。 引退しても、それは変わらない…はずだった。
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