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「これは、交換留学っていうやつだよ。君の世界風に言うならね」
少女は無駄に豪華な机に、上半身を投げ出すように横たえて、けだるげな口調のままにそう言った。
「いや、それって勝手に送り出されるものじゃないですよね」
「あくまで、風。風味。そんな細かいこと気にしないでよ、めんどくさいな。
格好も知識もてんでなってない君をそのままポイって放り出さないでここに招き入れてるだけ大分良心的だと思ってほしいな、もう」
ああ、めんどくさいめんどくさいとぶつくさ言いながら、彼女は立ち上がる。
「何度も説明する気はないよ、これで最後だ。
君は君の世界から、この世界へ交換留学生としてやってきた。交換というからにはこちらからも送り出されてるわけだけど、今はまあ、それはどうでもいいよね。
期間は何とも言えない。短いかもしれないし長いかもしれない。まあ、寿命で死ぬ前には戻れるでしょ。
君には、そうだな……ううん、とりあえずこの世界のあちこちを見てもらって、記録でもしてもらおうと思っている」
むちゃくちゃだ。
言葉としてじゃなくて、常識外れにもほどがある。
明晰夢って奴だろうかとは思うものの、正直、自分の夢とは認めたくない。
「聞いてる? で、さ、普通に書いてもらうんじゃ適当なこと書けてしまうからさ、いくつか制限をかけよう。
まず、僕の渡すノートを埋めきる事。
書く時はこの世界にあるものの色で書くこと。
その色は自分で調達に行くこと。
ああ、別に誰かに手伝ってもらったり加工してもらうのはかまわない。私はただ君がこの世界をどう思うか知りたいだけだから」
「その、拒否権とかは」
「ない。まあ、強制もしないけどね。嫌ならぼんやりと過ごせばいいさ。私にとってそれは残念ではあるけれど重要事項でもないから。
ただ、とりとめのないことを記した文字が見たいっていうのは好奇心の範疇だからね」
少女が宙にある何かをなぞるように指を動かす。
薄い灰色の瞳に一瞬だけ赤い光が差して、少女の目の前には分厚い臙脂色の表紙のノートとペンが数本浮かんでいた。
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