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「えっと…堀越昂平、です」 一応相手が先輩であることを考慮して、語尾を敬語にした。 正直握手なんてしたくなかったけれど、差し出された手を無視するのは感じ悪すぎかと思って、その手を軽く握り返す。 すぐに放すつもりだったのに、グッと強い力で握られた。 手を握ったまま、そいつは無遠慮に言った。 「堀越…昂平?なあ、昂平って呼んでいい?」 昂平は、ズカズカ踏み込んでくるその男に、心底困惑していた。 なんだ、こいつ。 永瀬に好意を持ってるんじゃないのか? なんで俺なんかに馴れ馴れしくしてくる? 思わず永瀬を見る。 永瀬は、珍しく固い顔をしていた。 その視線の先には、ガッチリと握られた昂平の手がある。 「手、もう離してくんない?」 昂平は、手を引っ込めようとした。 彼だって、よく知らない相手にそんなにガッチリ手を握られてるのはあんまり気分のいいものじゃない。 多少素っ気ない言い方になったが、永瀬も気分を害してそうだから、ゼミの学生だからといって遠慮しなくてもいいだろうと踏んだのだ。 だが。 「嫌だ、って言ったら?俺、昂平のこと、めちゃくちゃタイプなんだよね」 ウインクでもしそうな勢いで、早川はいきなり口説きにかかった。 「先生とキスしてたってことは、男もいけるんだろ?なあ、先生から俺に乗り換えない?」 正確にはキスではなかったが、その場面をやっぱりしっかり見ていたのだ。 その上で、永瀬の目の前で、そう言って口説けるのはある意味すごいとしか言いようがない。 しかも、握った手を離す気はなさそうだ。 昂平は、あまりの状況に唖然とした。 なんて言葉を返していいのか、わからない。 男もいける、のではなく、永瀬だからいいのだ。 永瀬のことが好きだから。 つうか、お前みたいな空気読めない系ゴリ押し男、友達でもムリ。 でもそれを、はっきりこの図々しすぎる男に言ってしまっていいのか。 とにかく手を離して欲しくて、彼は握られた手を強く引いた。 「永瀬とお前じゃ全然違う…手を離せよ」 キッと睨み付けると、昂平はそれなりに迫力がある。 伊達に兄を守るために鍛えたりしてきたわけじゃない。 しかし、早川にはそれすら逆効果のようだ。 「あー、その顔、すげぇ好み」 手はようやく離れたが、ますます楽しそうにそんなことを言うのだ。 「ツンデレ万歳だよな…そのツンツンした顔、デレさせてみてぇ」
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