4.

2/5
前へ
/27ページ
次へ
それから数日、昂平は永瀬の研究室には足を踏み入れなかった。 永瀬も、以前のように、昂平にその理由を問うたりしなかった。 彼らは普通に、家ではイチャイチャと同棲したての濃密な時間を過ごし、学校では淡々と日常をこなしていた。 永瀬の脅し…というか覚悟、が効いたのか、早川もそれ以上昂平にちょっかいかける様子も見せなかったので、そのまま何事もなかったかのように忘れていくのだと思っていた。 昂平のバイト先の塾に、早川が新入りの講師として現れるまでは。 「あ、堀越先生」 塾長に呼び止められて、昂平は足を止めた。 永瀬に送って貰って、今タイムカードを切ったばかりだ。 「こちら、今日から新しくバイトで入った早川先生」 「どーも、堀越センセイ」 ニヤニヤと笑うその男に、昂平はぎょっとする。 塾長は、呑気に二人を見比べて言った。 「あれ?二人は知り合い?あ、同じ大学か」 じゃあ、話が早いね…何かわからないこととかあったら教えてあげて、堀越先生。 塾長はそんな無責任なことを言い残して、さっさと行ってしまう。 「そんな怯えた顔してくれるなよ、堀越センセイ」 お前のこと名前しかわかんなかったから、調べるの苦労したんだぜ? 教育学部の二年で、剣道部。 ここで塾講師のアルバイトしてる。 去年までは寮、今年はどこに住んでるのか、なんと誰も知らなかったのはびっくりしたけどな。 どうせ、永瀬先生と住んでるから、誰にも教えてないんだろ? そこまで調べられてると、かなり怖い。 ペラペラと昂平の個人情報を話す早川に、彼はドン引きした。 「さすがに今から剣道部に入るのはムリそうだから、こっちにしたんだ…これからよろしくな、堀越センセイ」 お前と接点作るために、ここにバイトしにきた。 そう言われても、昂平は生理的な嫌悪感しか持てない。 手を差し出されたが、二度とその手を握るつもりはなかった。 「仕事上の最低限の付き合いはします。でも、お前とよろしくするつもりはない」 突き放すような冷ややかな言い方をしても、早川は、嬉しそうな熱っぽい視線で彼を見るだけだ。 「ああ…ゾクゾクする、そのツンケンした顔」 泣かせてみてぇな、それだけでヌけそう。 もう相手にするだけ無駄だ。 昂平は、プイッと顔を背けて、自分の授業の支度を始めた。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

502人が本棚に入れています
本棚に追加