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図書館で、永瀬を見かけたのは久しぶりだった。
ゼミ生が後ろにつき従って、永瀬が自分でも持とうとする本を、奪い取るようにして全部持っている。
きっとそれじゃあ、永瀬は気を使って、借りたい本を半分も借りられないのではないか。
昂平はそう思って、自分も手伝ってあげようか、声をかけるべきか少し迷った。
近づこうとして彼は、その学生が先日研究室で、永瀬と昂平の間に割り込むように質問してきたイケメンだということに気づいた。
なんとなく、ツキンと胸が痛む。
子どものようにヤキモチを妬いている。
そんな自分に自覚はあった。
しかし、彼は、それを永瀬に知られたくなかった。
彼らが、ただの学生と指導教官という仲でしかないことは、よくわかっている。
その関係にまでヤキモチを妬いていては、永瀬は仕事にならない。
だけど。
兄に対しては、兄がどんなに迷惑がろうと、自分のヤキモチを隠したことはなかった。
自分の醜い劣情だけは絶対に知られるわけにはいかなかったけれど、気にくわない奴は気にくわないとはっきり言えたし、激しすぎる束縛も、強すぎる嫉妬も、全部ぶつけることができた。
どんなにワガママを言っても、兄と彼の間には、切ることのできない血の繋がりがあるからだ。
兄がどんなに彼に呆れても、兄弟である限り、最終的には赦して貰えるという余裕が心のどこかにあったからだ。
でも、永瀬は違う。
彼が昂平をめんどくさいと思ったら。
小さなヤキモチですら、うざいと思われたら。
そこで、二人の繋がりはぷっつりと切れてしまうかもしれない。
そんな恐怖が、昂平を縛っている。
昂平は、くるりと永瀬に背を向けて、そのひとに気づかなかったふりをして、足早に図書館を後にする。
その後ろ姿を、永瀬がさみしそうに見つめていたことには、気づかなかった。
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