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「僕のプライベートは、君には関係ないことだよね?」
はっきり言ってやらないとわからないらしい、と判断して、永瀬は言い方だけは刺々しくならないよう、あくまでも柔らかい声でおっとりとそう言った。
「えー、だって気になるんですよ」
早川には、それでも通じないらしい。
恐ろしく鈍いのか、それとも、永瀬の踏み込むなという警告を無視できる図太さを持っているのか。
「せめて、あの子の名前とか教えてくれません?」
は?
永瀬は、その一言に、瞬時に戦闘モードになった。
まさか、こいつ。
「ストイックで誰にも心開きません、みたいな雰囲気がかっこいいから、一目惚れっていうか…友達になりたいんですよ、あの子と」
昂平目当てか。
もちろん、永瀬の研究室にやってきている時点で、永瀬に興味があるのはわかっている。
早川は、本当に研究がしたくてゼミに志望した部類の学生ではないことは初めから明らかだったからだ。
永瀬目当てでくる学生が、永瀬とは全くタイプの違う昂平に興味を持つとは想定外だったから、まさか、そうとは思いもよらなかった。
しかし、ならば尚更、昂平の情報を渡すわけにはいかない。
というか、それならむしろ、彼は自分の恋人だ、と言ってしまいたい。
だけど、学内でそれを公にしてしまったら、准教授の自分はともかく、学生の立場の昂平にはどんな事態が発生するかわからない。
ましてや、この、人の気持ちを推し量ることのできなそうな押しの強い若者がそれを知ったら、どんな行動に出るのか予想もできない。
「個人情報を本人の許可なく他人には教えられないよ、ごめんね」
他人、のところを気持ち強調して、永瀬はそう躱した。
「じゃあ、本人に訊きたいんで、今度紹介して下さい」
早川は本当にめげないタイプらしい。
教えたくない、という意図を全く読んでくれない。
というか、読みたくないのか。
永瀬は、どうせ昂平は研究室にはしばらく来ないだろう、と思って、適当に相槌を打った。
「じゃあ、今度ね」
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