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「本日暦が入荷致しました」
「…今日は何日かしら」
「え?く、九月二十五日ですけど」
暦さんはそれきり口を閉ざし、それしか映していないようにラックを見詰めている。
「…お探しのものはございませんでしたか」
「ええ、ないわね」
「宜しければお取り寄せも承っております。どのような暦でしたか?」
メモ帳を取り出そうとエプロンのポケットに手を伸ばした私に暦さんは瞳の光をふらふら移動させる。
「家で使っていたものなの。娘と孫と、一緒に。孫は暦を捲るのが楽しみだったのか、朝一番に今日をなくしてしまうのよ」
初めて聞く丸みを帯びた声に安心する。一人暮らしではなかった。暦さんには、家族がいた。
そんな当たり前のことでさえ、他人の私は知らなかった。
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