明治弐年伍月一日

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「いやあ、すまんすまん・・・。」 土方が洋装の軍服のまま、「雪梅庵」の奥座敷に姿を現したのは、暮れ六つ(19時)を半時ほど過ぎた時だった。 春さん事、春一番は手酌で酒を呑んでいたが、土方が姿を現すと居住まいを正した。 料理茶屋の「雪梅庵」は、旧幕軍が箱館を占領して以来、旧幕軍の士官連中の馴染みの店となっていた。 土方は春一番の前に座ると、腰に差した大刀を右脇に置き、笑っているのかいないのか・・・不思議な顔つきで徳利をとると春一番に向かって差し出した。 「相変わらず御多忙な様で・・・今日は良かったんですかい?」 春一番が盃を差し出しながら言うと、土方春一番の盃に酒を注ぎ言った。 「戦の後始末やら今後の事で、榎本さんや大鳥さん達と些か込み入った話をしていたんで・・・。」 土方は、弁解する様に言った。 春一番は、徳利を取ると、土方に盃を持つように促した。 「悪いな・・・これから後も一仕事あるんで一杯だけだ。」 そう言うと、土方は盃を構え、春一番の酒を受けた。 くいっと・・・煽った土方は一瞬・・・うな垂れて、春一番に言った。 「千駄ヶ谷の貧乏旗本の三男坊が遊び歩く程、箱館は近いとは思わねえが・・・。」 「やる事がねえ貧乏旗本の三男坊さ・・・暇ならいくらでもあらぁな。」 土方の言葉に、春一番は答えると、手酌で徳利の中身を自分の盃に移した。その様子を見た土方は、春一番に言った。 「総司の最期はどうだった・・・?」
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