明治弐年伍月一日

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「三男坊の旦那、お客さんだよ。」 土方に会った翌々日の午後、春一番が逗留している旅籠の「沖見屋」の仲居が階段の下から春一番に、呑気な声をかけた。 春一番は、煙管の刻みを灰皿にポンと落とすと、脇差だけを差して玄関口に出た。 そこには洋装の軍服を着た体格のいい三十路前後の男が立っており、春一番に要件を告げた。 「今夜、不都合が無ければ「雪梅庵」に暮れ五つ(17時)にお越しくださいとの副長・・・いや、土方陸軍奉行並からのお言葉です。」 春一番は、その男の顔を見ながら笑って言った。 「こちとら、特に用事という用事は無いんで・・・承ったと、土方さんに伝えて下さい。」 その言葉に、若い男は頷くと・・・じっと、春一番の顔を見て言った。 「ところで沖田さんは・・・どんな風に・・・。」 「総さんか・・・最期まで運命に抗いながらも、粛々とした潔い最期だったよ・・・。」 春一番の飄々たる言葉に、男は暫し・・・瞑目すると言った。 「ならば・・・俺も、せいぜい沖田さんに笑われない様にしなければな・・・。」 男はそう言うと笑った。 春一番は、懐から手を出し、顎に置くと言った。 「兄さん、お名前は・・・?」 「島田魁です。」 「ああ、総さんから聞いていますよ、何でも御陵衛士崩れから近藤さんをお救いになったという、大力自慢の凄腕の方だってね・・・。」 春一番の言葉に島田は少し笑ったように見えた・・・。
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