明治弐年伍月一日

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「変わりゃあしませんよ、大川(隅田川)は、東京になっても流れを変えず・・・町衆も相変わらずです・・・。 こう言っちゃあ何ですが、お武家さんより町衆の方が強いのかもしれませんね。」 春一番の言葉に、土方は春一番の顔を見て言った。 「武家ってもんは、清流にしか住めねえ魚みたいなもんだ・・・御政道が変わればそれっきりさ・・・。」 まるで、自分の事を卑下して言う土方に春一番は言った。 「で、今日俺を呼び出した訳は・・・?」 春一番の言葉に、土方は春一番が差し出した銚子から流れる酒を盃に移しながら言った。 「近藤さんと、沖田の話さあ・・・。」 「最後の様子はお伝えしたと思いましたが・・・。」 春一番の言葉に土方は、胡坐に座った両の膝をギュッと握りしめて言った。 「知ってることを教えてもらいたい・・・ここでは全てが伝わらねえんだ・・・。」 土方の言葉に春一番は、手酌で銚子の酒を盃に移し・・・傾けながら言った。 「近藤さん・・・徳川さんにこう言われたそうですよ・・・。 『右(近藤勇)、勇の儀は、先達脱走に及び候者にて、当家は更に関係つかまらず云々』 ってね・・・。」 その言葉に土方は、持ち上げかけた盃を膳に戻すと自嘲じみた顔つきで言った。 「そいつは・・・徳川将軍家に見捨てられたって事だな・・・」 そして、目を閉じ・・・しばし・・・沈黙すると言った。 「なんてこった、俺たちは徳川さんから見たら、単なる道化だったって訳か・・・。 それなら斉藤たちと会津で戦って死んだ方がマシだったかな・・・少なくとも会津公は俺達を見捨てなかったぜ。」
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