158人が本棚に入れています
本棚に追加
/63ページ
そんな定義を掲げながら、今日もぶらりと柴谷慧は、あるお店に向かう。
「いらっしゃい、久々ね」
カランと鐘の音を立て、玄関のドアを開く。
するとお店のオーナーである伊藤智樹が現れた。
通称『ママ』と呼ばれ、お客さんに親しまれている人望が厚い男性。
現在の年齢は35歳で、髪質は柔らかなアッシュ色。パーマを後ろに流し、無造作のオールバックをしている。揉み上げから襟足まで刈り上げた、ツーブロックになっていた。
ママの大学時代は、経済学と経営学を学んでいたらしい。一度は経営費と運営資金を貯める為に就職をする。
それから数年後に周りの支援をして貰ったのち、BARを作り上げたと聞いた。
ママは来店者が誰なのかを把握するのだろうか。慧の方向をチラッと見る。
だが普段通りの落ち着いた雰囲気で、慧に対し挨拶をした。
お店の名前は『ROSE』BAR。ゲイ専用のBARだ。
カウンター席とテーブル席には数人の男性が座っており、酒を飲みながら思い思いに話をしている。
静かな洋楽のBGMが流れる中、話し声と、バーテンダーのシェイカーを振る音が響く。
バーテンダーはみな、黒色のシャツとパンツに腰で巻くタイプのロングエプロンを身に着けている。
パッと見て外装も中の雰囲気も通常のBARと変わらない。
店内の雰囲気を見れば、気軽に出入りしやすい、とゲイの仲間には評判が良い。
最初のコメントを投稿しよう!