51人が本棚に入れています
本棚に追加
聞き覚えのある着メロが取調室に流れた。
マユがケンジ用に設定したラブソング。
だが、携帯は田辺の手にあった。
ディスプレイには「ケンジ」の文字。
こちらからかける前に電話がかかってきた。
どういうことだ?
田辺はマユの顔を覗き込んだ。
マユは着メロで相手がケンジだと分かっている。
視線で出るように促す。
田辺は唾を呑み、通話ボタンを押した。
「もしもし、こちらは伊勢崎マユさんの電話です。葉山ケンジさんですか?」
「こちらは葉山ケンジさんの携帯ですが、どなたですか?」
「神奈川県警戸塚署刑事課田辺と申します」
田辺はスピーカーから流れる自分の声に驚き、ディスプレイの表示を確認した。
そして目の前の容疑者を見た。馬鹿な。
「おい、お前は本当に俺か?一体今何時なんだ?」
2人の田辺は今置かれた状況を肌で理解した。
そして、もう1人の自分の返答を確認しあって、通話先と1時間の時差があることを悟った。
なんてことだ!こんな調書が書けるか!
こっちが電波系になってしまう。
最初のコメントを投稿しよう!