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「さくらっ。ごめん、お待たせっ」
椅子と椅子の間を縫うようにして、玲奈は小走りで駆けてきた。走ってきたせいなのか、ハニーブラウンの髪の毛は乱れていて、ミニスカートの裾は少しめくれていた。
平謝りする玲奈に、さくらは笑って答えた。
「そんなに待ってないよ。私も今来たばっかり」
さくらは、待ち合わせ時間ぴったりに着いていた。スマートフォンの時計を表示させれば、いつのまにやら二十分がたっていたらしい。
「私、実はまだ、キャンパス内で迷子になることあるんだよね」
椅子に座りながら、玲奈はそう白状した。
そして、さくらもそれに同意する。大学の敷地内は、高校の校舎とは比べ物にならないほど広い。さくらは、オープンキャンパスでここを訪れた時の衝撃を思い出していた。
「あ。はい、玲奈。これ、この前の講義の」
頼まれていたノートを、バッグから取り出して差し出す。
玲奈は、手のひらをこすり合わせて、さくらに向けて拝んだ。
「ありがとー! 助かるっ。すぐ写すねっ」
玲奈は、サマンサタバサのバッグから、ノートと筆記用具を取り出した。大理石を模したネイルのストーンが、シャープペンをノックするたびにキラキラと光る。
午後の講義までは、少し余裕がある。ゆっくりでいいよ、と、さくらは伝えた。
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