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玲奈がノートを写し始めたので、さくらは再び隣のテーブルに視線を投げた。
シャープペンの芯をノートに滑らせながら、玲奈が言う。
「風邪なんて久しぶりに引いたよ。季節の変わり目だからかなあ。夜とかまだ寒いよね」
さくらは返事をしたつもりだったが、声になっていなかったらしい。玲奈が、ノートを写す手を止めて、さくらの顔を覗いた。
「さくら? 何見てるの?」
そう声をかけられて、さくらは慌てて玲奈の方へ向いた。
「えっ? なに?」
「だから、さっきから何見てるの? って」
訊きながら玲奈は、さくらが見ていた方向へ視線を彷徨わせた。
隣のテーブルに聞こえないよう、さくらは声を潜めて言った。
「ああ、その……隣の女の子たちが、メンズのファッション誌見てたから、なんでかなあって思って……」
玲奈が、今度は照準を合わせて、隣のテーブルを見る。
ああ、と低く唸りながら、玲奈は口の右端を上げた。
「男の吟味でもしてるんじゃない?」
「お、男の吟味?」
「大学に、何しに来てんだろうねえ」
嘲るように口元を歪めた玲奈に、さくらは曖昧に笑い返すしかできなかった。
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