初恋に、賞味期限はありますか。

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「ただいま」  家に着いて、いの一番にキッチンへ向かう。母が、ちょうど夕飯の支度をしているところだった。ガスコンロに置かれた鍋からは、もうもうと煙が上がっていて、白味噌のやさしい匂いがする。根菜を煮込んだようなあまい香りがして、具は大根だとすぐに分かった。 「おかえり。ご飯もうすぐできるから」 「はあい」  何かつまめるものはないかと、冷蔵庫の中を漁る。チーズキャンディを一つ手に取って、冷蔵庫の扉を閉める。セロファンを剥がしながらキッチンテーブルに目をやると、今日カフェテリアで見たあの雑誌が、表紙を上向きにして置かれていた。 「お母さん、また買ったの?」  あきれたように笑いながら、さくらはそう訊ねた。 「そりゃあ、買うわよ。だって、(かける)くんが載ってるのよ? しかも、表紙。もう二冊買っておこうか、悩んじゃった」  さくらの母は、まるで我が子の活躍を喜ぶかのように、そう息巻いた。  実際母からすれば、家が隣で、自分の娘と幼馴染である(かける)の存在は、子ども同然なのかもしれない。――が。
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