決する、男ふたり。

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 そのアパートの前に立つと、(りく)はまじまじと外観を見上げた。新しくはないが、古くもない。初めて一人暮らしをする大学一年生の男が住むのには、ふさわしい建物かもしれない。  階段を上がって、二階へ進む。外廊下を歩いていって、角部屋で足を止めた。  玄関ドアの横を見上げる。簡易的な表札が掲げられるであろうスペースには、何も記されていない。住宅を特定されないようにという配慮だろう。本当に、並外れた人気者は気苦労が多い。  (りく)は、チャイムを鳴らした。軽快な音が、玄関ドアの向こう側から聞こえる。程なくして、足音が近付いてきた。  鍵が回される音がして、ドアノブが震える。ドアの隙間から、彫刻のような見慣れた顔が覗いた。 「いらっしゃい。早かったね」 「おー」 「迷わなかった?」 「……まあ」 「やっぱり、迷ったんだ」  (かける)は、困ったように笑った。  (りく)は、方向音痴だ。商店街などで店から出ると、自分がどちらから来たのかわからなくなる。ひどい時は、数メートル歩いてから間違いに気がつく、なんていうこともあった。なので、幼馴染三人で初めての店へ行く時は、(りく)は必ずどちらかと待ち合わせをしてから行くようにしている。一度、意地を張って一人で行ってみたら、余裕を持って出たにも(かかわ)らず、三十分も遅刻した。
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