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オルシア大国は強く美しい。それはこの世界の誰もが知る基本的なことだった。
暖かな日差しが降り注ぐ大地は肥沃で、食卓を潤す穀物やたわわな実をつける果樹は数え切れない程に育ち、色とりどりの花は大地を美しく彩る。そびえる山々からは食料は当然のことながら、人間には欠かせない清らかな水が流れ自然の恵みを与えてくれる。
飢えも寒さも渇きも知らない、地上の楽園と言ってよいこのオルシアは、しかし美しいだけではない。絶対王政であるにもかかわらず国王参加の議会にて国の方針を決めるオルシアは戦にも長けている。陸を支配する騎馬隊も、海を操る海軍も、無敵を誇っている。そんなオルシアに表立って攻撃を仕掛ける国はもう無いに等しい。野望を持つにはあまりに強敵だからだ。
しかしそんなオルシアにも悩みというものは存在する。国の重鎮達を悩ませているのは、即位して三年ほど経つ国王――アルフレッドの事だ。アルフレッドは早くに父王を亡くしたために即位して三年とはいえまだ二十五歳と若く、オルシアの太陽と呼ばれる王族特有の金髪は美しく野性的でもある。海を思わせる深蒼の瞳は知的で、丹精な顔立ちをしており、即位前には軍部にいたこともあって筋肉の付いた身体は、女からは情熱的なため息を、男からは羨望のため息をはかれるほどだ。智謀知略にも長けており、常に公平で温和。
完璧と言っても差し支えない王が重鎮達の悩みの種。そんな不思議な現象は何もアルフレッドが引き起こそうと思って引き起こしたわけではない。むしろアルフレッドも頭を悩ませている一人だ。そう、自分が持つ権力と、顔に。
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