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富国であるオルシアは側妃が五十人になろうと民には影響が出ないので国民からの文句は出ない。そこは問題ないのだ。では何が問題か。それは、まだまだ増える一方で収まる気配が全く見えないからだ。興味の欠片もない女達が増え続け、後宮では王の寵愛を巡って争いが絶えず、アルフレッドが現れれば我先にと近づいては腕に纏わりつき、しなをつくっては誘いをかける。そんな日々にいかな温和であるアルフレッドも限界が来ているのだ。ならさっさと王妃を決めろと言いたいところだが、決めない理由が理由なので誰も何も言えない。
「……陛下、大変申し上げにくいのですが」
内心をうかがい知れない笑みを浮かべながら、伸びた髭を一撫でして声を上げたのはオルシア大国宰相を務める壮年の男――ジェラルドだった。会議の間に集まった重鎮達はジェラルドとアルフレッドを交互に見るが、じっと口を噤んでいる。
「……なんだジェラルド」
発言の許可を得たジェラルドはでは、と口を開く。
「先日後宮にお入りになられました隣国バーデン公国公女ルーシェ様のお部屋をご用意いたしましたが、こちらのお部屋で後宮にある部屋は全て埋まりましてございます。これ以上ご側妃が来られますようでしたら後宮を新たに増築せねばなりません。国費としてはさしたる問題はございませんが」
そこでジェラルドは一度言葉を途切らせた。真っ直ぐに年若い国王を見る。
「後宮の増築を陛下は望まれますか?」
その時ピクリと王の眉が動いたのが誰の目にも映った。アルフレッドには珍しく不機嫌さを隠そうともしない。
「ジェラルド。そなたはこの国の宰相。ここにいる誰よりも、そなたは私の事を知っているだろう。先程の言葉は、わかっていての戯言か?」
冷たい声だ。その声の通りに、ジェラルドは全てわかっている。今の状態が王にとって不本意なものであることも、いくら大国とはいえ他国と諍いを起こすことの不利益も、わかっていても言わなければならない。それがこのオルシア国宰相の務めだ。
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