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「もちろん、存じております。しかしながらこのままでは自体は悪化すれど改善されることはございますまい。当然、陛下もわかっておいででしょう。陛下、無礼を承知でご進言申し上げます。どうぞ王妃様を娶られませ」
その言葉は誰もが予想できたものだった。当然、アルフレッドも。
「誰を娶っても角が立つ。最悪、戦が起こるだろう。女だけの諍いならばどうとでもなるだろうが、国同士になっては民にも迷惑をかける。得策ではない」
「確かに、我が国における〝王妃の嫡子に王位継承権第一位を授ける〟という取り決めがある以上、それは得策にはなりません。無駄に火の粉を増やすことになりましょう。しかし、たった一つだけ、誰にも口出しできぬ王妃選出の方法がございます。陛下はそれをお厭いでいらっしゃるので口には出しませんでしたが、ここまで来てはもう、これしかないかと」
ジェラルドの言葉にまさか、とあたりが騒めく。皆が知っている、王妃選出の方法。
「どうか陛下、国の為民の為に、水晶の儀にて王妃様をお迎えくださいませ」
アルフレッドは苦虫を噛み潰したような顔をした。しかし否を唱えないのは、本人もそれ以外穏便に済ませる方法がないと知っているからだ。
このオルシアには水晶の儀というものが存在する。宮殿奥深くに収められている巨大な水晶に立会人の下国王が自らの姿を映すのだ。そしてその水晶は王と国に一番ふさわしい者の姿を映し出すと言われている。実際、歴代の王は全員ではないが、幾人かは水晶の決めた者を伴侶として王妃の座を与えている。その御代は平和で実り豊かであったことは事実。そして水晶の儀で選ばれた王妃の親族はどれ程の有力貴族であったとしても、王妃の親族であるという権力を振りかざすことは許されない。尊ばれるべきは王妃一人であって、その親族ではないということだ。それ故に、水晶が誰を選んでも国政に影響はないと言っていいだろう。しかし問題があるとすれば水晶が映す王妃の姿は性別を問わないということだ。幾人か、数えられるほどではあっても男の王妃が存在していたのはアルフレッドも知っている。この国では同性婚は認められていないとはいえ、水晶によって選ばれたのだと言えばその限りではなく、誰も不思議には思わないし反対もされない。――個人的な嫉妬は別として。
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