望んだものはただ、ひとつ

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 隣国もオルシアの歴史を知っているので問題はない。そう、本人を除く皆に問題はないのだ。しかし、選ばれた本人は、どうだろうか。  女であったとしたら嫉妬の渦に巻き込まれ、子供ができないように陰謀を張り巡らされるだろう。まして水晶が選ぶのは王と国にとってふさわしい王妃であって、選ばれた者の幸せは選出理由に含まれない。好きでもない男の為に、決して幸せになれないだろう後宮で過ごさなければならないなど地獄でしかない。そして選ばれたのが男であったなら、悲惨以外のなにものでもないだろうことは想像に難くない。送り込まれてくる側妃達に全く興味がないアルフレッドが何故初夜だけは彼女達を抱くのか。それが決まりだからだ。処女を王によって散らされて初めて王の妃と認められる。それは王妃であっても例外ではない。そう、男であっても。  初夜の日に寝台の天蓋――厚い布のものではなく、はっきりと透けて見える薄布――を挟んでとはいえ立会人が幾人も見ている中で同じ男に身体を暴かれて組み伏せられ、本来なら受け入れる場所ではないところで男の男根を受け入れて、決して実りはしない種を体内に放出されるのだ。それは今まで孕ませる側である男として生きてきた者には耐え難い屈辱だろう。  どんな結果になろうと水晶に選ばれた者に拒否権はない。途中で辞めることもできない。男であれ女であれ、そんな地獄を強いることが嫌であるから、アルフレッドはこの方法を最初から知ってはいたが選ぼうとはしなかった。周りもそれは重々承知していた。しかし、そうも言ってはいられない状態になり、とうとう宰相であるジェラルドが口火を切ったのだ。 「……できれば、その方法は取りたくない。それでもそなたは水晶の儀が必要だと思うか?」  責めるような響きではなかった。そこにはジェラルドに対する紛れもない信頼が多分に含まれている。
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