望んだものはただ、ひとつ

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「はい。陛下がお優しさゆえに嫌がっておられることは、このジェラルド、確かに存じております。しかし、もうこれしか方法はないかと。王妃様をお決めになられれば、それを理由に側妃を送り込まれることはなくなります。現在おられる方々は後宮に止まっていただく他ございませんが、これ以上増えるということはなくなるでしょう。どうか陛下、伏してお願い申し上げます。どのような方が選ばれようと私をはじめここにいる臣下一同でお支え申し上げます。どうか……」  ジェラルドが立ち上がれば、波のように重鎮達も立ち上がる。そして檀上の王に向かって一斉に跪いた。その光景にアルフレッドは一つ息を零して、重い頭を上下させる。 「……わかった」  重い言葉だ。アルフレッドはそう感じた。まだ見ぬ一人の人間を不幸にしてしまう言葉を放つことになろうとは、思いもしなかった。 「では次の満月の夜……そうだな、確か三日後だったか。その日の夜に水晶の儀を行う。通例通りに、儀式のことも、誰が選ばれたのかも、初夜を終えるまでは決して口外いたすな」  王の言葉に、跪いたまま臣下達は一斉に御意、と応えた。そのまま疲れたようにアルフレッドは散会を伝える。王が立ち去って漸く、ジェラルドも立ち上がり会議室を後にした。  ジェラルドは宰相ゆえに自分の執務室を城の中に持っている。めったにないが、緊急時には王と共に城に詰めて国と民を守る為だ。執務室に入れば二人の青年が作業をしていた手を止めてジェラルドを迎えてくれる。 「お帰りなさいませ」 「お疲れ様でございました」  柔らかく微笑むのはジェラルドが将来を期待して目をかけている宰相補佐の青年達だ。お帰りなさいと声をかけてジェラルドの持っていた資料等を受け取っているのは、武官の方が向いているのでは? と見る人々に思わせる立派な体躯を持ったリオン。茶の短髪に茶の瞳を持つ彼は国王であるアルフレッドよりも三つほど年上ではあるが政治の世界では年若い部類に入るであろう。リオンは交渉に優れており、人間関係もそつなくこなすおかげで敵は少ないので表の仕事を任せることが多い。
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