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遺品整理業者の兄ちゃんを連れて、ばあさんの家に、初めて入る。
微かに、すえたような匂いが鼻をついて、窓を開ける。
と、開けた窓から、するりとジェリーが入ってきた。
「お前、もう怒られねぇからって自由すぎ」
苦笑する俺達をよそに、ジェリーはすたすたと歩いていく。
迷わず向かった勝手口には、プラスチックの黄色い箱形のものがあった。ジェリーはその箱の中へ入っていく。
それは――猫のトイレだった。
クソの始末もしないくせに。そう学生を怒鳴りつけていた。庭をトイレにされて怒っているのかと思っていたけれど、どうやら違う。
トイレから出てくると、ジェリーは俺と業者の兄ちゃんの顔を交互に見た。それからにゃあと鳴いて、何かを探すようにきょろきょろと辺りを見回しながら歩き始めた。
にゃあお。にゃぁーお。
鳴きながら、家中を歩く。
にゃあお。にゃあーお。
そして台所に戻ってきたジェリーは、また俺の顔を見上げて鳴いた。
もしかしたら、こいつは。
ばあさんのいないこの家の庭にいるのを、何度も見た。天敵がいなくてのびのびやりたい放題しているのかと思っていたけど、あれは。
「…お前、もしかして、待ってたのか」
思わず問いかける。
ジェリーはじっと俺を見た。答えを催促するように。
「ばあさんは、死んだよ。もう帰ってこない。」
そう告げると、抗議するように、最後にもう一度、にゃあ、と鳴いた。
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