15人が本棚に入れています
本棚に追加
「あら、恭子ちゃん」
振り返らなくてもわかる。
この声は、お隣に住んでいる山口さんの声だ。
噂好き。
お喋り好き。
なるべく接触は避けたいタイプ。
だけど無視するわけにもいかず、私はダウンジャケットのポケットから取り出した鍵を、ドアノブに差し込んだまま振り返る。
「こんにちは」
「こんにちは。今日も寒いわね。お買い物でも行って来たの?」
山口さんは私の右手が掴んでいる、スーパーの買い物袋を凝視している。
「はい」
「本当、高校生なのにいつも偉いわね。うちの娘なんて大学生にもなるのに、私が風邪でも何もしてくれないのよ?本当、恭子ちゃんの爪の垢を煎じて飲ませたいぐらいよ」
アハハッと、何が面白いのか笑い出す山口さんに、私はバレないように溜め息を吐く。
「そういえば、お母さんの具合いはどう?まだ、良くならないの?」
「はい。眩暈が酷いみたいでまだ外に出るのは不安だって」
「あら、それは心配ね」
と、少し声色を落としたもののその瞳は嘘をつけない。山口さんは、今日も好奇心で満ち溢れた目をしている。
最初のコメントを投稿しよう!