トタニさんが来ない。

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「あら、恭子ちゃん」 振り返らなくてもわかる。 この声は、お隣に住んでいる山口さんの声だ。 噂好き。 お喋り好き。 なるべく接触は避けたいタイプ。 だけど無視するわけにもいかず、私はダウンジャケットのポケットから取り出した鍵を、ドアノブに差し込んだまま振り返る。 「こんにちは」 「こんにちは。今日も寒いわね。お買い物でも行って来たの?」 山口さんは私の右手が掴んでいる、スーパーの買い物袋を凝視している。 「はい」 「本当、高校生なのにいつも偉いわね。うちの娘なんて大学生にもなるのに、私が風邪でも何もしてくれないのよ?本当、恭子ちゃんの爪の垢を煎じて飲ませたいぐらいよ」 アハハッと、何が面白いのか笑い出す山口さんに、私はバレないように溜め息を吐く。 「そういえば、お母さんの具合いはどう?まだ、良くならないの?」 「はい。眩暈が酷いみたいでまだ外に出るのは不安だって」 「あら、それは心配ね」 と、少し声色を落としたもののその瞳は嘘をつけない。山口さんは、今日も好奇心で満ち溢れた目をしている。
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