トタニさんが来ない。

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「じゃあ、これで」 さっさと切り上げようとする私に、山口さんは「ごめんなさいね。引き止めちゃって」と、またアハハッと笑う。 そう思うなら、毎度引き止めないで…。心の中で毒づきながら、私は部屋の中へと逃げ込んだ。 …本当、山口さんと話すと一気に疲れる。 あんな好奇心で満ちた目で見られるのは、今の私にとってストレスだ。 「ただいま…」 小さく呟きながらキッチンへと向かうと、私は買ってきた食材を冷蔵庫の中へとしまう。 挽肉に玉ねぎ。キャベツとトマトも買って来たから、今日はハンバーグとサラダにしよう。 あと、今日はお母さんの大好物もある。 「鯖の一夜干しっと」 鼻唄を歌いながら、私は冷蔵庫の扉を開ける。そして、熨斗(のし)の貼られた大きな白い発泡スチロールの箱の上に、一夜干しをポイッと投げる。
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