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そこへ、足早にカツカツ、と高いヒール音を鳴らし店内へ駆け込む女がいた。
こちらも、テレビでよく見かける大物女優だった。
「いらっしゃいませ」
店員全員が、丁寧にあいさつする。
だが、その女はあいさつに反応することなく、ただならぬ様子でそのまま窓際に座っている男の席まで進んだ。
淹れたてのコーヒーをトレーに乗せた俺は、男の席まで持っていく途中、不穏な空気に運悪く気付いてしまう。
うわー!
まさかこのピリピリした空気、嫌な予感が……
朝から面倒くさいなぁ。
正直、他でやってくれよ!
ここでの男女のもつれは、見慣れた光景であるが正直うんざりする。
「大変お待たせ致しました。こちら、ブラックコーヒーのホットになります」
コーヒーカップを前に置いた瞬間、男に勢いよく左腕を引っ張られ、バランスを前に崩す。
えっ……?!
俺は、慌てて右手でテーブルを押さえ、自分の身体が男の上に乗っからないように必死になる。
その瞬間、俺の唇に柔らかい何かが押し当てられる。
は……?!
ナニ……?!!
唇に押し当てられたものが何であるか確認する間もなく、俺はパーン!と何かを叩く音を聞いた。
同時に、俺の左頬へと痛みが走る。
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