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「何よ!!今度は、その男だっていうの?!!!」
ヒステリーに女は叫ぶ。
「だから言ったじゃないか。あなたとは、もう会わない、と」
男は冷静に答えるが、俺の左腕をギュッと掴んで離さない。
「こんなつまらない、平凡な男のどこがいいのよ?しかもだいぶ年下じゃない!!」
次の瞬間、女は置いてあった水を、男を目掛けて勢いよくかける。
『つまらない平凡な男』というフレーズにムッとしながらも、俺は咄嗟に男の盾となり水を浴びる。
女は急に我に返り、その場から足早に立ち去っていった。
冷たっ…
分かっていたとは言え、ただでさえ寒い早朝に水をかけられると、より冷たく感じるものである。
残念ながら、時間をかけてセットした俺の髪も全て崩れ、服もびしょ濡れになってしまった。
自分から盾になったとは言え、なんで朝からこんな目に……
冷静に考えて、あの女優……男が恋愛相手なんておかしくないのか?
恋は盲目?
それとも、一般人の常識では理解できない世界の話ってことか―――?
「悪かったな……クリーニング代、払うよ」
財布から諭吉を無造作に何枚か取り出し、俺に握らせる。
「いえ、頂けません」
一応、殊勝な顔をして突き返す。
「巻き込んでしまった迷惑料も込みだ……」
……だったら余計もらえねぇよ。
男女の色恋沙汰に、これ以上巻き込まれるのはゴメンだ。
内心、この男の『金で解決』させようとする姿勢にイラッとしながらも、接客スマイルでその場をやり過ごす。
店長が遠くから、そのやり取りを心配そうにじっと見ているのが分かる。
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