本編

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花が咲くように夜空を色とりどりの光が散らばっていく。本物の花ならこんなに音はしないし煙の臭いも出はしない。けれど俺はこの瞬間、ガッツポーズを解くことができなかった。 人によって綺麗だとか、うるさいだとか、いろいろな感想があるだろう。今の俺にとっては心地よい達成感しかなかった。 普通科の高校を卒業した俺は親戚の花火師のもとに弟子入りした。小さいころから花火は好きだったし、小学校の卒業文集にも花火師になると書いていた。その親戚も両親も高校までは出とけと譲らなかったから通っていたものの、学業成績も顔面偏差値も普通な俺は特に何もなく卒業したのだった。 弟子入りしてからは初めてのことばかりだった。火薬の種類や量、それらによって変わる色や大きさなど事細かにまとめられたデータを一つ一つ吟味し、頭に叩き込んでいく作業。この時ほど高校の化学でやった炎色反応を覚えてよかったと思ったことはなかったけれど、こんなに役に立たないのかとも思った。 加えて法律関係。花火師以前に働く人間としてどのような法律があるのか、何を基準とするのかなども学校ではほとんど学べない。花火関係でもそうだ。火薬類取締法や航空法、町によっては条例なんかもある上、近頃は騒音被害にも気を付けなければならない。 「ややこしい時代になった」とは師匠の言だ。
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