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「思ったんだけれど。栞って、断絶よね。物語の流れには、本来介在しない断絶。でもそれこそが、座標を定めるロゼッタストーン――繋がりになるのかも」
断絶が、僕らと本を繋げうる。あるいは人と人を。彼女と僕の間には距離があるが、それは跳び越えられるはずだ。
「ありがとうございます。大切にしますよ」
彼女の眼を初めて真っ直ぐに見つめた。やはり、これは恋ではない、しかし彼女のその眼はとても美しいと思った。
「さようなら、ヒバリくん。《純粋な孤独》を得た旅人くん」
「さようなら、ツバメさん。『何か』を満たしたい旅人さん」
僕らは笑顔で、まるですれ違うように別れた。しかし確かに、そこに絆は存在したのだ。
「また逢う日まで」
どちらかが言った。僕らは、別れた。
その後を言及するのは省こう。極めてつつがなく、下り道くらい順調に、オープンキャンパスへと参加し、嵐山を訪れてから京都の旅を終えた。
帰り着いて両親に迎えられた僕は、親の部屋から厚い小説を引っ張り出して、その一ページ目に栞を挟んだ。
『ドン・キホーテ』。
その日から僕は、一歩一歩、物語の上を踏みしめるように多くの読書をし、夢を抱いた。《純粋な孤独》以上に、満たしたいものに気付いたのだ。
もうすぐあの夏の日から一年。僕は、書を捨てて街へ出る。一人旅をまた始めるのだ。
僕は福島への航空券と、鞄の奥の小説に挟まれたツバメに、命のぬくもりを感じながら、想うのだ。
栞が、あの人への道標となりますように。
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