溢れたワインをすくう

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溢れたワインをすくう

中田部長に高滝から電話がかかってきた。説得の結果を伝えるということだ。高滝は猿渡に連絡するとすぐに会う約束を取り付けられたので喫茶店で話し合ったということだ。 「結論から言います。猿渡は会社に戻るつもりはないと言うことです」 中田は眉間に皺を寄せて厳しい顔をした。 「本当にちゃんと説得したのか」 説得の良し悪しなんか関係ないと思った。 中田部長は猿渡に対して急に怒鳴ったり、話しかけられても素っ気ない対応をすることが多かった。中田はそれはあくまでも上司と部下の関係で特権と言う認識らしいがあまりに理不尽な態度と周りからは見られていて、危険な状態と思われていた。 中田自身は鈍感でその状態には全く気づかず、相変わらず同じように怒ったり、冷たい態度をとったりは続いた。部下である猿渡は我慢しながらも不満をどんどん蓄積させてのちに爆発してしまうだろうというのは皆がわかっていた。 「もう、猿渡のことは忘れましょう。退社した人間のことなんだから。また新しい人を雇いましょう」 「新しい人って言ったって。猿渡みたいな業績を上げる人間を一から採用するなんてどんなに大変なことかわかるだろう」 「そうですね。確かに大変だと思います。運良くにまた猿渡みたいな人が入ってきても今のまま中田部長が上司で変わらないならまた辞めてしまいますよ。まず中田部長は上司として部下への接し方を学びましょう。それからどのようにすれば部下が働きやすい環境が作れるか考えましょう」 高滝の電話は切れた。
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