運命の日

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運命の日

12月も半ばに入り、初雪が降った。 「夜になる頃にはかなり積もりそうだね。遥は雪は好き?」 遥はベッドに腰掛けて窓の外を見ていた。 遥からの提案で、宗介は遥のことを名前で呼んでいる。遥のほうが宗介より年は1つ上だが、遥からは「宗介くん」と呼ばれている。 「雪は好きよ。この窓から見える公園に大きな桜の木があるでしょ?あの木の枝が雪を纏って、それがとっても綺麗なの」 確かに真っ白な雪を纏ったその大きな桜の木は、春の姿とはまた違った幻想感を漂わせている。 「宗介くん、今日は私、体調が良いの。あの公園まで歩いて行ってみない?」 宗介は遥の勢いに押される格好で、遥と一緒に病院の外に出た。遥と病院の敷地外に出たのは初めてのことだった。 雪はひらひらと舞い降りている。一本の傘を2人で差して並んで歩いた。遥は紺のダッフルコートに白のマフラーを巻き、何故かカメラを持って来ている。 「いつもは部屋からしか写真を撮れなかったから。今日は近くで撮りたいの」 2人の記念写真のため…ではないのかと宗介は少しがっかりした。 遥が嫌がるから、まだ2人の写真はおろか遥の写真も撮ったことがない。 公園までの道を、遥はとてもゆっくりと歩いた。 大人が普通に歩くと5分程で着きそうだが、宗介と遥は20分近くかけて公園にたどり着いた。 大きな桜の木は、間近で見るとますます荘厳で、まさに威風堂々といった出で立ちである。 「綺麗…」 遥は呟き、木に向かってカメラを向けた。 パシャリ 音を出したのは宗介のスマホだ。 宗介は悪戯っぽい笑顔で遥を見た。 遥は一瞬困ったような顔をしたが、まあいいわ、と笑顔で言い、桜の木の写真を撮り始めた。 「ねえ。宗介くん。ちょっと疲れたから、座ってもいいかな」 宗介と遥は桜の木の下にあるベンチに並んで腰をかけた。このベンチは木の下にあるためか雪に濡れていない。 遥は宗介の右腕に自分の腕を絡ませ、宗介に体を預けた。 「宗介くん、変なこと言ってると思うかもしれないけど…、許してね。もし、私がこの世界からいなくなっても、私を…忘れないでほしいの」 それは今まで宗介が触れられなかった、向き合いたくなくて、見て見ぬ振りをしてきたものだ。 それが突然、猛烈な現実感を伴って目の前にやってきた。
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