衝動

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「僕は…、遥さんが思っているような素敵な人間ではないよ。僕はこの社会のどこにも必要とされない人間なんだ。これでも僕なりに真面目に一生懸命勉強してきたんだよ。運動も出来なくて、真面目に勉強することだけが取り柄だと思っていたから、大学の講義だってサボったことは一度も無い。お酒は苦手だから飲み会の雰囲気に馴染めなくて、入ったサークルもすぐにやめた。大学の授業の無い日は日雇いのアルバイトをして、たまに友人とご飯を食べたりするだけの日々だよ。それで何も問題ないと思っていたんだ。」 遥はただ黙って宗介の話を聞いている。 「就職活動って言ってね。四年生になると皆が一斉に色んな企業に面接を受けに行って、合格すると晴れて翌年の春から社会人になれるんだ。僕はどうやらその社会人とやらにはなれないみたい。面接官に言われたんだ。君はもっとコミュニケーション力を上げる努力をするべきだった、って。サークルにも入らずに日雇いバイトでプラプラしている学生を採りたいと思う会社なんてないって」 宗介は目に涙が溜まってくるのが分かった。これはきっと悔し涙だ。 「面接で何を話しても、君は何がしたいのか分からないって指摘されるんだ。僕だって何をしたいのか分からないんだから仕方ないよね」 宗介は目に涙を溜めながらも自虐的に笑う。 遥は宗介を見つめた。 「私から見たあなたは、誰の気持ちにも真摯に向き合える、とっても優しくて素敵な人よ」 宗介は遥の言葉に耳を傾けつつも、話を続ける。 「この間、数人の友人とご飯を食べたんだ。僕以外はみんな来年春から社会人になることが決まっているから、それぞれの就職活動での苦労話大会になったよ。それはもしかしたら暗に僕に対する純粋なアドバイスだったのかもしれない。けど僕には、僕を上から見下して優越感に浸っているとしか思えなかったんだ。心が汚いよね。こんな自分も嫌だし、でもどうしたらいいのか分からないし、もう本当にこの世から消え去りたいと思うよ…」 最後はもう涙声だった。 遥は返事をしなかった。静かにベッドから起き上がり、椅子に座ったまま俯いている宗介の前まで来ると、何も言わずに宗介を抱きしめた。 宗介は、ただただ遥の体温を感じていた。
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