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贅沢な時間
結局、母の退院後も、宗介は遙に会いにしばしば病院を訪れた。
遥は携帯電話を持っていなかったので、次に会う約束は宗介が毎回帰る前に遙に伝えることにしていた。
11月の初め、宗介は一度だけ約束の面会時間から大遅刻をした。
約束の時間から2時間も遅れて病院に着き、遥の部屋に駆け込んだ。
「ほんっとうにごめんね!こんなに遅くなってしまって!」
宗介は部屋に駆け込んで来てすぐに謝った。
「え?私は何も嫌な思いはしていないよ?」
遥は困ったような笑顔で宗介を見た。
「あなたを待つ時間は私にとってとても贅沢な時間なの。今日はどんなお話をしてくれるのか、服はどんなかしら、髪型は同じかしら、なんて想像していると、何時間だってあっという間。だから、誰にも邪魔されずにあなたを待つ時間ってとても贅沢な時間だと思うの」
宗介は嬉しさと驚きで言葉も出ない。
遥は続ける。
「でも、来ないっていうのはダメよ。絶対に来てくれるって思っているから、私はあれこれ楽しく思いを巡らせられるの。来ないかも、って思っちゃったら、私はその感情に心が支配されて、待つ時間を楽しめなくなっちゃうわ。だから、それだけは守ってね」
宗介はたまらなくなって遥を抱きしめた。
何が起きても遥のことだけは絶対に裏切らない、と宗介は自分に誓った。
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