第3話

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 馬鹿力で逃げて、トイレへ走って髪を上げて鏡を(のぞ)いたら、とんでもないものを見つけた。  髪の毛を下ろしてれば見えない位置、はっきりと跡が付いていて、雫は真っ青になった。中学生てこんなことするの! と慌て果てた。  なんだか最近、中学生になったばかりの自分には刺激の強いことばかり起こる。頭を抱えたくなる。 「あーあ、なんで俺のことわかんないかな……畜生」  教室に残された彼はひとり淋しそうに呟くと帰路に着いた。  背が伸びて声が低くなっただけで、こんなにも気付いてもらえないものかと淋しくなった。    髪を下ろした雫が今度こそ鞄を取りに仕方なく教室へ戻ったら、彼はいなくなっていた。  文句を言いたかったけれど、顔を合わせたらまた泣いてしまいそうだ。  背が高くてカッコいい人ではあったなあとぼんやりと思ったが、されたことを思い出すと頭にくる。  そしてこれを透子に見られないようにしないと、自分のせいなんかじゃないはずなのに困ったことになる。結局、頭を抱えた。 「ただいまー」  「おかえりー」と言ったのは母ではなくさっき聞いた声だった。 咄嗟(とっさ)に言葉がでない。彼が草太と仲良く遊んでいる。 「おおおお母さん!」  取り敢えず状況把握(じょうきょうはあく)が出来なくて、透子に叫んだ。 「あら。おかえり、雫」 「おかえりじゃなくて!」  雫は嫌なものでも見るように震えながらそれを指差した。  人を指で差しちゃダメです、そう教わって育ったからこそ指で差してやった。 「あー、(そう)? 今日夕飯食べていくから」  ん? 壮くん? ぎゃあと雫が叫んだ。  背が伸びていて、声変わりをしていて、大人っぽい雰囲気になっていたからまるで気づかなかったが、彼は裏に住んでいた東雲(しののめ)(そう)だ。幼馴染の一人で、彼の家庭の事情で二年間ほど会っていない。  一年前に戻って来ていたが、雫は戻って来ていたことなど今の今まで全く知らなかった。 「ぎゃあてあんた、壮に何かされたの?」  雫が真っ青になる。 「壮、何したの? 言いなさい」  透子の恐ろしい笑顔と尋問(じんもん)に壮は焦った。 「逃げるぞ、雫!」  そうして無理やり雫の手を(つか)むと相田家を飛び出した。
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