我輩は白い猫である。

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我輩は白い猫である。 紛れもなく白い猫である。 白く艶のある、触ればシルクのように柔い自慢の毛並みは、今では泥や砂で汚れてくすみ、いつのまにか真っ黒になってしまった。 しかし、我輩が白い猫であることには変わりない。 餌を求めて、人間に媚びてみたが、 『あっち行け!!野良猫!!』 と箒で体を叩かれてしまった。 叩かれた時に右足が折れてしまった。 我輩は確かに野良猫でもある。 だが、我輩は白い猫である。 幸運を招くと言われている白い猫である。 今日、ナワバリを見回っていた際、人間の家の庭に間違って入ってしまった。 その時、我輩は目を疑った。 家の中には、立派な鈴が首元で光る黒い猫がいた。 黒い猫は艶やかな漆黒の絨毯とも喩えたいほど綺麗な毛を持ち、緑色の2つの目は夢世界にあるガラス玉の様に真っ直ぐ澄んでいた。 黒い猫は外の世界など出たことがないとでも言うように気高く、美しくそこに存在していた。 我輩は恐る恐る窓の方に近づいて行った。 窓ガラスの前に行くと、黒い猫がこっちを向いた。 我輩をみた黒い猫は、 『お前は黒い猫だな』 と言った。 我輩は何か言おうにも、喉から言葉が出てこなかった。 我輩はすぐさま走った。 黒い猫の視界から一秒でも早く消えたくて、右足の痛さなど忘れて、とにかくありったけの力で走った。 走りながら、叫びたかったが、叫ぶ声も力もなくてただただ走るしかなかった。 我輩は、走り尽くし、冷たく硬い地面の上に倒れた。 あたりは暗く、静かで、我輩の息が切れる音だけが生きているようであった。 人間は涙という水を瞳から流すと聞いたことがあるが、我輩は今こそその涙という水が欲しかった。 せめてそれで枯れた喉を潤したかった。 我輩がまだ生まれたばかりの頃、 お母さんは、 『あなたは兄弟の中で一番真っ白な猫ね。 白い猫はね、幸福を招くのよ。 誇らしい猫なのよ。』 とよく我輩を褒めてくれた。
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