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その日は終始気まずく、互いに言葉も交わさず、アルベルトは酷く自分が罪深い気がしてシンの顔すら見る事が出来なかった。こんな事は今まで無かったのだけれど、シンはあまり気にしていないのかいつも通り。無口で冷たく、それなのにどこか優しい。それに安堵しながらも、アンナに向けた笑顔を思い出すと胸が苦しくなる。小さく頭を振ってその痛みを吹き飛ばしてはみるが、もう何回、同じ事を繰り返しているか分からない。
「具合でも悪いのですか?」
不意に額に伸びた手に、アルベルトの身体がビクリと跳ねた。見詰められると何とも言えない感情が渦巻く。恥ずかしくて、何だか後ろめたくて、慌てて視線を逸らした。
「少し熱があるみたいですね。顔も赤いし、今日はもう休みましょう」
言われてみれば確かにぼーっとする。のぼせたように顔も熱い事に気付き、その日は促されるまま寝室へと足を運んだ。
ベッドに横になると、シンは掛けた布団のシワを丁寧に伸した。その横顔にすら、つい見惚れてしまう。改めて見ても、シンは本当に美しい男。すっと通る鼻梁に、目尻にかけて緩やかに落ちる切れ長の瞳。男臭い訳じゃないけれど、強くて、そして、どこか儚い。
「シン、明日はちゃんとするから……。今日は具合が悪くて、嫌な思いばかりさせてごめんなさい」
少し驚いた後、シンは何故か小さく肩を竦めると悪戯っぽく笑った。
「そういう事にしておきましょう」
深く頭を下げ、部屋を後にする背中を見送ると、アルベルトは胸の奥が甘く疼くのを感じた。あの笑顔は初めて見るものだ。少しだけその心に触れた事が嬉しくて、アルベルトはこの喜びを忘れないように、硬く目を閉じた。やがて夕焼けが窓から差し込む優しい時に、緩い眠りに包まれた。
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