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ふと意識を戻すと、いつの間にか悪夢は終わっていた。ここがどこかは分からないが、優しく髪を撫でる感覚に、自然と涙が溢れた。
「……フェイ?」
「わんこ、気付いた?」
労わるように掛けられた声はミトのもので、咄嗟に身体を起こそうとしたものの、全身に走る激痛でアルベルトは小さく呻き再び布団に沈んだ。
「ごめんな、俺、何も出来ない……」
精一杯首を振り、枕元で啜り泣く少年の髪に指を通す。
ミトは心優しい少年だ。この少年に、アルベルトはどれだけ救われた事だろう。声を発する事も難儀な中、アルベルトはそれでも心の中でミトに語り掛ける。
どうかこの身の為に泣かないでくれ。全て、自分で選んだ道だ。後悔はない。この道を進むしか、最早未来はないのだ、と。痛みから逃れるように再び意識が遠退いて行った。
次に目覚めた時、全てが夢であったならどんなに良いか。フィリアで幸せに暮らしていて、シンとエルバントと春の野原を歩いて、谷間に吹く風を追いかけて、あの川で────それは二度と叶う事はない、夢だった。
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