第十一章 別れ

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 どれくらい眠っていたのか。脳天に響く程の物凄い騒音に目を覚ますと、言い争うような声が夜の静けさに響き渡っていた。身体の痛みも大分ましになっていて、アルベルトはゆっくりと部屋を出た。扉を開くと広い玄関が目に入る。どうやらここはフェイ達の住む家のようだ。怒鳴り声はラフターの部屋から聞こえて来ている。  そっと扉から中を伺うと、暴れるフェイの姿が飛び込んだ。 「フェイ!」  思わず飛び出したものの、身体中が痛み全身の力が抜けてアルベルトは思わず膝から崩れ落ちてしまった。慌てて顔を上げた瞬間、アルベルトを見詰めるフェイの瞳に全身が強張って行く感覚を覚えた。  相変わらず光のない瞳に揺れる、怒りと、胸が苦しくなるような悲しみ。 「わんこ!動いちゃダメだろう!?」  ミトに支えられて立ち上がると、アルベルトの首輪に光る黒いタグを見詰め、フェイは震える声で呟いた。 「もう、戻れないんだぞ」  そんな事は誰よりもアルベルトが分かっている。 「後悔はない」  だからどうか、そんなに悲しまないでくれ。アルベルトのその思いが伝わる筈もなく、フェイは逃げるように部屋を去って行った。  取り残された部屋の中、ラフターがアルベルトに強く語り掛ける。 「アル、俺はおまえに賭けたい。フェイの心に触れる事が出来るのはきっと、同じ道を歩んで来たおまえだけだ」  ミトが続くように、強くアルベルトの手を握った。この男達が何を賭けてくれたのか、それすらも分からないのに、その思いに応える事が出来るのだろうか。それでも、答えなど一つしかない。
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