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その言葉に、アルベルトはフェイの心に触れる事が途端に怖くなった。アルベルトはフェイの事を勘違いしていた。遥彼方を見据える瞳は強くて、孤独の中を真っ直ぐに生き抜くような姿を嫌いながらも心のどこかで憧れていた。
だが小さく震える姿は少しでも触れただけで壊れてしまいそうで、触れたらもう二度と、見てもくれなくなりそうで。憎まれてでもこの寂しい男の側にいたいと思い、私が側にいる────そんな無責任な言葉を思わず言ってしまいそうになった。
この時傷付けてでもフェイの手を取る事が正しかったのだろうか。孤独を生きてきた男を無理矢理その道から引きずり下ろす事が正しかったのだろうか。だがこの時、アルベルトにそんな勇気は無かった。フェイの全てを知らなかったから。その心に隠した信念を、抱えた罪の重さを、フェイが無意識の中で自身に向け救いを求めていた事を、何一つ知らなかったからだ。知っていたらフェイの心をこれ以上闇に沈める事も無かったのだろうか。アルベルトはいつでもそんな愚問を繰り返す。答えなど、ありはしないのに。
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