第十一章 別れ

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 朝の刺すような寒さに目を覚ます。冬も間も無く終わるというのにこの辺りはまだ酷く冷え込む。見回した薄暗い小屋の中は眠る人々の息遣いだけが弱く聞こえた。  身体を起こすと小さな金属音が耳に響く。そっと自分の首に伸ばした手に触れた、ひんやりとした金属の感触。アルベルトはもう王でもなくなった。そして一ヶ月前に、ブラックタグの奴隷になった。強制的に仕込みが終わり、フェイともそれ以来顔を合わせていない。フェイを知りたいと思っていたのに、心の何処かで安堵している自分もいた。  あの日、フェイはアルベルトを拒絶した。それからアルベルトは何も分からなくなってしまったのだ。この世には、決して触れてはいけない、そんな物があった事を知った。孤独を生きるフェイの側にいたい。そう思っても踏み出せなかったのは、アルベルトがまだフィリアを思っているから。もう帰る事など出来ないのに、それでもシンを、エルバントを、愛しているからである。生半可な気持ちで向き合える程フェイの心の闇は浅くは無くて、その闇に飲まれてしまう事がアルベルトは怖かった。  そして長い時間小屋にいる様になり気付いた事は、ここの奴隷の扱いについてである。奴隷とは金で売られ人の手を渡るものとアルベルトは思っていたが、どうやらここは違うらしい。仕事が入ればルーイが迎えに来て、仕事が終わると小屋に返しに来る。朝晩の食事はミトが運んでくれるし、ラフターがマメに診察をしにくる。ここはまるで二食医者付きの住み込み仕事斡旋所のようで、いくら世間知らずでも少しおかしい事ぐらい分かる。それでもここに来た日に鎖で繋がれ、牢屋のような檻の中に入れられた人を思い出すと分からなくなってしまう。フェイは何故人買いに身を堕としたのか。信じたくはないがやはり、金の為なのだろうか。そんな事を考える余裕がある程、アルベルトは時間を持て余していた。
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