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フェイがブラックタグを扱って来なかったからか、アルベルトも少女もあれ以来仕事がない。具合の悪そうだった少女は今ではすっかり良くなったらしく、食事も食べるし、相変わらず俯いてはいるが顔色も悪くはない。このまま何もせずに暮らせたら、そんな思いすら頭を過っていた。
しかしそんな事はある筈もなく、それから更に一週間後。遂にその時は訪れた。
「仕事だ、出ろ」
扉を開いたルーイがブラックタグの少女に言い放つ。アルベルトの胸は酷く痛み、あの恐怖が蘇る。この少女はどうか殴られませんようにと、アルベルトは心の中でそう願った。しかし頼りなく立ち上がりルーイに近寄ったと思ったら、少女は突然そのまま崩れ落ちた。
「大丈夫か!?」
慌てて駆け寄ると、少女は苦しそうに肩で息をついている。
「……私が、代わりに行くから。ゆっくり休むといい」
その言葉に少女が反応する事は無かったが、少女を小屋の隅に寝かせ、アルベルトはルーイに視線を向けた。あからさまなしかめっ面が目に入ると途端不安に襲われる。大丈夫だろうか。また取り乱したりしないだろうか。フェイの築いて来た信用を、無にする事はないだろうか。それでもやるしかない。アルベルトは何度もそう言い聞かせた。
そのままルーイに連れて行かれた場所は、フェイの部屋であった。一ヶ月ぶりに会うその男は、初めて会った時と同じ、光のない瞳でアルベルトを見据えた。何もかもが振り出しに戻っていた。いや、初めから何も進んでいなかったのだ。あまりにも頑なで強い男の心を前に、アルベルトは何故か酷く淋しくなった。
アルベルトがそんな事を考えながら呆然としていると、フェイは不機嫌そうに舌打ちを放った。
「俺の信用を地に落とすつもりか」
「そんなつもりは……」
全くないのだけれど、結果としてそうさせてしまうのだろうか。その不安はアルベルトの中で常に渦巻いている。
「ブラックタグとして、私はどうする事が正しいのか分からない」
教えてほしいのだ。あの欲望を前に、一体何をしたらいいのかを。
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