第十一章 別れ

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 厳しい冬が過ぎ去り、穏やかな春を越えて、人買いの街ラブールに再び夏の日差しが降り注いだ。アルベルトがここに来て丁度一年が経っていた。あれから徐々に仕事は増えていた。アルベルトが呼ばれる事もあったし、少女が呼ばれる時も必ずアルベルトが代わりに出ていた。別に好き好んで身代わりをする訳ではないが、身体が弱い少女はいつもルーイが来ると倒れてしまうのだ。この小さな小屋の中で少女を救える者は同じブラックタグのアルベルトだけ。ただそう思っただけであった。  アルベルトは当然女に買われる事もあったけれど、女を目の前に相変わらず身体は反応せず、その事で一時は大騒動ともなった。ラフターの診察の結果手の施しようがない、と言うよりも、身体が反応せずとも男客は取れるとの事でアルベルトはあっさり切り捨てられた。  フェイとはあまり会う機会もなくなったが、あの男は相変わらずである。二人の距離も出会った時のまま。同じ屈辱を味わってもやはり、アルベルトとフェイは何かが圧倒的に違う。アルベルト自身いつしかそれが何か知りたいとも思わなくなっていた。アルベルトはこれまで知らなければ良かった事を知り、何度も後悔して来た。だからきっとフェイの心の内も知らない方が良い。そう自分に言い聞かせていた。  ブラックタグとしての仕事はと言うと、心を閉じる術をマスターし、淡々と〝仕事〟と言う行為をこなした。こんな男を抱いて楽しいものなのか、それはよく分からない。だがミトとも相変わらず仲が良く、波風の立たない平和な日々が続いていた。
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