第十一章 別れ

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 頬に感じた手の温もりにゆっくり瞼を開く。ぼやけた視界の真ん中に、漆黒の色が揺れる。 「……フェイ?私は、一体────」  枕元に腰を下ろしていたフェイに頬を撫でられ、アルベルトは自分が泣いていた事に気付く。 「血を吐いて、ぶっ倒れたんだよ」  その言葉で漸く思い出した記憶に、アルベルトは震える。フェイは静かな瞳でそんなアルベルトを見下ろした。 「どうしてそんなボロボロになってでも守ろうとする。気付いていたのだろう?黒札の女が、嘘を付いていた事」  フェイの言葉にアルベルトの心臓が竦み上がった。 「どうか、彼女を責めないでくれ。仮病だと知りながら手を貸したのは、私だ」  最初の不調でアルベルトを身代わりに逃れる術を知ったあのブラックタグの少女は、以来具合の悪いふりをしていた。それを、長い間アルベルトは黙認していたのだ。あの地獄のような苦しみを、知ってしまったから。  その告白に当然怒ると思っていたフェイは、何故か今迄見た事のないような穏やかな微笑を浮かべている。 「心を亡くし、鎖で繋がれてしか歩けない奴隷達が、お前を助けてくれと扉を叩き続け、終いには扉を壊した。それが、何を意味するかわかるか?」     
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