第十一章 別れ

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 アルベルトはゆっくりと首を横に振った。 「あいつらが心を、自分で考える力を、僅かでも取り戻したんだ」  それはフェイにとって悪い事なのではないのだろうか。  呆然とするアルベルトに向かい、フェイは言葉を繋いで行く。 「俺が何故人買いに身を堕としたのか、知りたいと言ったな。人権も名前もない、この世の地獄を生きる人々がそれでもただ生きようと足掻く姿を、俺は長い間見てきたからだ。奴隷の明日に希望などない。だからこそそのもがき苦しんだ人生の最後に、そんな人生でも悪くはなかったと、笑って欲しい」  アルベルトは漸く触れたフェイの心に、驚きと共に喜びと、そして切なさを感じた。憎まれてでも救いたいと願うフェイは、自身なんかよりもずっとボロボロの筈だ。 「私はお前の事を、勘違いして────」  言い掛けた言葉は、震える身体を引き寄せたフェイによって阻まれた。 「勘違いじゃない。俺は黒札だった癖に人買いに身を堕とした最低な人間だ。だからどうか、お前は同じ道を歩まないでくれ」     
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